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用例コーパス 活用例

【編集部より】

ウィズダム英和・和英用例コーパスは、実際の授業の現場でも、便利にご活用いただいています。中高一貫校教諭の川口先生から、具体的な活用例をご投稿いただきました。

駆け出し教師のためのDual WISDOM 用例コーパス活用法

川口裕美子先生

川口 裕美子

はじめに

本校は中高一貫6年制コースと高校3年制コースを併設しており、私は今年度6年制コース中学1年生の「Oral Communication」と3年制コース高校1年生の「英語Ⅰ」を担当しています。

どちらの授業においてもWritingやSpeakingなどのOutput的活動を取り入れる際、「こんな時に英語だったらどう言うだろうか」と感じることが多くあります。そのような場合、もちろんALTに質問してアドバイスをもらったりもしますが、彼らが常時学校に待機して手伝ってくれるという訳にはいかないのが現状です。そこで私はその代用として複数のコーパスを活用しています。これによりいつでもNative Speakerの生の表現を検索できるので、ALTに直接相談できない時でもコーパスがその役目を果たしてくれ、大変役に立っています。中でも「Dual Wisdom用例コーパス」は現場の教師にとって最も使いやすいと感じる私のおススメのコーパスです。そこで今回はこの用例コーパスの活用例をご紹介したいと思います。

Dual WISDOM英和辞典の活用

私は教材研究や授業準備の際によく「Dual WISDOM英和辞典」を使います。もちろん最初は紙の辞書で調べてからこのWeb上の辞書を見るようにしていますが、Dual WISDOMの場合、語句検索を行うと紙面でみるよりもPC画面で見る方が字が大きく鮮明であり、また電子辞書と違い紙の辞書のイメージに近い表示になっているので「カラーで見やすい」というところが気に入っています。

Dual WISDOM用例コーパスを利用してオリジナルの教材作りを

また2007年4月から「Dual WISDOM 用例コーパス」が一般公開されたことにより、ますます教材研究がしやすくなったと思います。この用例コーパスはある表現を調べたい場合、辞書に載っている全ての用例からその表現を検索し拾い上げてくれます。これにより教師が伝えたい語の用例がその語義の用例だけでなく辞書全体から一度に検索することが出来、教師が自分で探しだす手間が省けます。

また同じ用例であっても例えば海外の大型コーパスで調べると難しすぎる場合があったり、KWIC表示で見ても前後の脈絡が分からないと内容が分からなかったりする場合もあるのですが、この用例コーパスはもともと辞書用の完結した例文が母体となっているので、1文で分かりやすく単語集の例文のようになっており、日本の中高生レベルの英語学習者にはぴったりの用例が出てきます。

私はこれを用例検索だけでなくオリジナルの教材作りにも活用しています。しかもこの用例がNative Speakerの「生の表現」を集めた三省堂コーパスに基づいたものなのですから、こんな新鮮で活きのいい教材はないと思います。では実際の作成例と使用例をご紹介しましょう。

Dual WISDOM英和辞典 用例コーパスを使ったオリジナル問題プリント作成例

まずは見出し語、成句検索で

Dual WISDOM英和辞典でgetを見出し語検索すると次のような画面が出てきます。

用例コーパス

このget+名詞の用例をさらに個々に調べたい場合に用例コーパスを使います。

「get+job」の用例を調べる

さてコーパスランキング1位の「get+job」の用例をもう少し詳しく調べてみることにしましょう。

用例コーパスページを開きキーワードにgetを入力し「ソート位置」を「右2つめ」にします。

そして「共起語」にjobを入力し「共起語位置」を「右2つめ」にします。そこで検索をすると以下のような画面になります。

用例コーパス

用例をコピー&ペイストする

次に各用例のgetの部分をクリックして例文全体を表示し、それをコピー&ペイストして自分のファイルに貼り付けます。

用例コーパス

パソコンの画面上で辞書を「コピー&ペイスト」できるのはWeb辞書ならではの特徴でしょう。この「コピ・ペ」を使ってオリジナルの教材を作れるということは日々業務に追われる教師にとってたいへんなメリットとなります。ここまでできたら後はご自分の工夫次第でいろいろな問題が作れると思います。

用例を使った問題例

私はこの用例を加工して空欄補充問題を作ったりしています。ほかの「get+名詞」のパターンも付け加えて作ったプリントが以下になります。

jobのコロケーションを調べて問題作成

さらに発展編としてget+jobのパターンのjobのコロケーションを調べてみましょう。

jobの「ソート位置」を「左1つめ」にして検索します。

用例コーパス

今度は「ソート位置」を「右1つめ」にして調べます。

用例コーパス

これをもとにjobに関するコロケーション問題を作ります。

この形式ではjobにはどのような語が結びついているかが学べると思います。こういった語の連結情報を学ぶことで生徒のWriting力、表現力が伸びていくのではないかと思います。

このような問題プリントは普段授業のある日はなかなかゆっくりと時間がとれないかもしれませんので、冬休みなど比較的余裕のある時期に作ってストックしておくと必要な時に使えると思います。またこのようにストックしておいたファイルを整理すると生徒だけでなく私たち教師自身の立派な研究ノートとしても役に立つでしょう。私も実際このようなタイプのプリントを高校1年生の夏期セミナー(夏休みの特別授業)で使いました。このセミナーではhave, make, take, get, giveなど基本動詞の活用を学びながら英文を読解していくコツを学ぶことを目標にしました。具体的にはこれらの語の使用頻度の多いパターンをいくつか抜き出し、その用法を用例コーパスで検索し、問題を作成しました。普段の授業ではゆっくり一つひとつの語彙を調べる時間がないのですが、このセミナーでは基本語彙の使い方を学ぶことに重点をおき指導しました。以下にご紹介しますプリントはセミナーで実際に使用したものです。

参考:「have +名詞」のパターンを学ぶプリント

作成プリント

生徒たちに「“I have…”の後にどんな語を思いつきますか?」と質問すると、「a pen」とか「a bag」、「a book」などといった語をあげてきました。そこで実際に多く使われている名詞のパターン(※1.look 2.time 3.place 4.money 5.problem…)を用例コーパスの例文を基に空所補充問題にして作り、生徒に推測させてみたところ、生徒たちは「have+名詞」の使われ方の意外な実態を知り、とても驚いていました。文法的にあっていても実際の使われ方を知ることで、その語がより身近に感じるようになると思います。このような活動を繰り返すことで生徒の語彙の運用能力を高めていき、より自然な表現が発信できるようになってくれればと思っています。

※参考文献:投野由起夫 「100語でスタート!英会話 コーパス練習帳」(2004 NHK出版)

用例コーパスを使ってオリジナルの用例集をつくる

また語彙指導の一つとして私は「単語カード」を生徒に作らせています。これは生徒が一回でも多く辞書を引く機会を増やし、生徒のモチベーションを少しでも上げることを目標に始めました。そのような理由から特に調べる語を限定することなく教科書や参考書に出てくる意味の分からない単語を調べさせたため、単語カードが夏休みまでに大量に出来上がってしまった生徒もいます。

そこでそのような生徒に対しては「語彙研究ノート」を作成させ単語カードの整理に役立てようと企画しています。

「語彙研究ノート」例(案)

ノート左側ノート右側
get【日本語訳】
They went out get something to eat. 彼らは何か食べるものを買いに行った。
I’ll get a present for Carol. (I’ll get Carol a present.) キャロルにプレゼントを買ってやろう。
Can I get a drink? 飲み物をお持ちしましょうか
Did you get a chance to talk with him? 彼と話をする機会はありましたか
Get somebody to do your homework 代わりに宿題をやってくれる人を探しなさい。
How can I get to the museum from here? ここから博物館へはどうやって行けますか。
I’m getting better. よくなってきています。
They got to be friends fast. 彼らはじきに友達になった。
Oh, now I get it! ああ、やっと分かった。
He got back to New York. 彼はニューヨークへ帰った。

具体的にはまず単語カードから基本的な動詞や機能語などを抜き出し、それぞれの語に関するページを作り、そこに辞書や教科書、参考書などで出てきた用例を書き出していきます。

この際に「用例コーパス」を用いて生徒に用例を提供したり、実際に生徒が「用例コーパス」を見たりする機会があればより一層この研究ノート作りの作業がはかどると思います。こうしてオリジナルの用例集が出来上がると、一つの語のいろいろな使い方が一目瞭然で分かり、自分の頭の中でもすっきりと整理されると思います。

以上簡単に「Dual WISDOM英和辞典 用例コーパス」の活用例の一部をご紹介しましたが、ベテランの先生方の中にはもう既に当然のこととして実践していらっしゃる方も見えると思います。しかし、私のような駆け出し教師でも意気込むことなく簡単に使えるのがこの「WISDOM用例コーパス」の魅力でもあります。いずれにせよ今後私たち英語科教員にとってこの「用例コーパス」がなくてはならない存在となっていくであろうと確信しております。

Dual WISDOM 和英辞典 用例コーパス活用例

私は生徒に英作文を書かせる際に、日本人英語学習者の考える表現と実際Native Speakerが考える表現とのギャップを埋めるためにはどうしたらよいか考えさせられることがありました。

例えば日本語の「~たい」にあたるwantを使って1文を書かせると、当時担当していた中学2年生の生徒は

しかしALTはこのような表現を見て「実際にはあまりこういう言い方はしないな。このような場合は、I’m hungry. /I’m thirsty. /I’m sleepy.などと言ったほうが自然に聞こえるかもしれないね」と説明してくれました。そこでこの日本語の「~たい」という感覚を表現したい場合、英語ではどのように表されるかを「Dual WISDOM和英辞典 用例コーパス」で見てみました。

用例コーパス

まず「キーワード」に「たい」と入力し、左1つめにソートし、共起語を拾います。すると「~たい」に続く表現を検索して表示してくれます。

そしてそれぞれの用例を表示すると「~たい」を表現する様々な用例が分かります。

例えば「君に話したいことがある」という日本語を英語に直すと、生徒ならI want to tell you something.などと書いてしまいそうですが、実際の用例ではI have something to tell you.となっています。

用例コーパス

その他にも検索を続けていくと、日本語の「~たい」にあたる表現として英語ではwould / would like to / hope / wish / などたくさんの語句が使われていることに気付きます。このように、日本語では「~たい」という同じ助動詞が、英語ではいろいろな表現されるということがひと目で分かります。

こういった用例をすばやく生徒に提示してあげることで、生徒の持つ英語感覚を研ぎ澄ますことが できるのではないでしょうか。

トピック表現を調べるのにも用例コーパスを使うと便利

昨年の夏休みの宿題で、中学2年生の生徒に英語日記を書かせた際いくつか読解に困る英文がありました。例えば

これはどういう意味かお分かりでしょうか。甲子園での実況中継を見て書いた感想なのですが、よく考えると「その試合は白熱した」と書きたかったということが分かりました。それ以外にも

などと言った表現を書いた生徒もいました。

日本語には人物以外のものが主語として使われることが多いため、生徒も文の始めから日本語に直していくと同じような間違いをしてしまいます。このような日本語と英語の構文の違いも「用例コーパス」を見ればよく分かります。

用例コーパス

これはキーワードを「試合」で検索した結果です。ひとつの単語からもいろいろな表現が検索できます。

以上、簡単に活用例をご紹介させていただきました。この用例コーパスの使い方は十人十色だと思いますが、活用にあたっては私たち現場の生徒と常に直面する教員が、それぞれの学校で生徒のニーズにあわせた使い方をしていくことが何より大切かと思います。この「用例コーパス」は私のような初心者にもとても簡単に扱え、用例も分かりやすく表示されているのでとても使いやすいと思います。皆様もぜひ一度お試しください。

(かわぐち・ゆみこ)

川口 裕美子(かわぐち ゆみこ)

高等学校 英語科 教諭